あんなに通った道路を、忘れかけていた感情で走る。 片道3時間の、海沿いが続く道。 バイクで毎週、鼻を赤らめて冷たい手足で、鍵を開けてから言う最初の冗談が好きだった。 もうあの家には住んでない。 途中で寄ったうどん屋さんで、ひとり。 寂しくて車から出られなかった。 この先、いくら進んでも会えない。 あの時と同じ道なのに、会えない。 パチンコ屋さんの角を曲がって、こっそり開けた玄関の前、二階に続く階段をのぼった。 高校生の頃の写真。 積み上げられた洋服と、片付いたパソコンデスク。 同じ匂いのベッド。静かに寝転んで眠った。 日が昇って生活が始まって、コソコソと家を出た。 小さくお邪魔しましたとつぶやいて、バイクにまたがる後ろから、私もバイクにまたがった。 薄い茶色のヘルメットは、今も誰かが被っているのだろうか。 パチンコ屋さんは曲がらない。 私はまっすぐ進むことにしたんだった。 この先に待っている人と、今は手を繋いでいるんだった。 この道をまっすぐ進むその先に、いつか会えるだろうか。 あの日のように変な顔をして、私は笑っているだろうか。 待っていてほしいけれど、このまま終わりでもいいような気がして、 振り返ったけれど遠くに遠く、相変わらずまっすぐな視線で立っていて。 もう少しだけ、まだ後ろから見送っていて。 手を繋ぐこの人と歩いていく、あの時歩けなかった道。 まっすぐ。まっすぐ。
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