ゲロガメとオハナ

ゲロガメです。
ゲロガメは、亀の甲羅が背中についた蛙みたいな見た目をしています。
ゲロガメは、ゲロもガメも気に入ってはいなかったので、
いつもウサギの耳を模したカチューシャをつけていました。

ゲロガメは、オハナと一緒に住んでいました。
ゲロガメはオハナのことが好きでしたし、オハナもゲロガメに好きだと言いました。
ゲロガメは、オハナの土が乾くと水をやり、一緒に肥料を買いに行って、
オハナの好きなものをたくさん知りました。
朝日と一緒にふたりも起きて、
晴れた日はオハナが歌を歌い、雨の日はゲロガメがダンスを踊りました。

そんな生活が一年続きました。

ゲロガメは、オハナのお世話をするのが好きでしたし、
オハナもそれに応えてかどんどん綺麗に大きくなりました。
ゲロガメはオハナを、オハナはゲロガメを大好きでした。
気付くとゲロガメは、うさ耳カチューシャを付けずにお出かけをするようになっていました。
ゲロガメは、オハナのことが大好きでしたので、
毎日毎日たっぷりの水をやり、毎日毎日新しい肥料を敷き詰めるようになりました。
オハナは、もういいよ、大丈夫だよ、と言っていましたが、
ゲロガメはオハナのことが大好きでしたので、毎日毎日あげずにはいられないのでした。

ある日、ゲロガメが目を覚ますと、いつもの窓際にオハナの姿がありませんでした。
外はまだ薄暗く、じっとりと雨が降っていました。
電気をつけると、昨日オハナにあげたばかりの肥料が、床に散らばっているのが分かりました。
ゲロガメは家を飛び出し、オハナと行った河原や公園やいつもの散歩道を探しましたが、
オハナを見つけることはできません。
オハナが一人で出かけることは本当に珍しかったですし、
晴れたお昼間に虫さんとお話をしに出掛けるぐらいでした。

走りつかれたゲロガメが泣きながら家に帰ると、オハナは家に帰っていました。
いつものように穏やかな声でおかえりと言うオハナを見て、ゲロガメは声をあげて泣きました。

オハナは言いました。
お水と肥料が根っこを腐らせてしまいそうなの。

ゲロガメは、もう一緒には住めないなと思いました。
それを伝えると、オハナも頷きましたが、ほろほろと涙を流していました。

オハナは言いました。
これからは、ここから見える土手の向こう側、一緒に土筆を見つけたあの辺にいるね。
いつでも会いに来て。

ゲロガメは、もう二度と会いに行かないことを分かっていましたが、
オハナの言葉は嬉しくて何度も何度もありがとうと言いました。

オハナが荷物をまとめて出て行ったあと、ゲロガメはうさ耳カチューシャを探しながら、
部屋に残る優しい香りに涙が止まりませんでした。

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