先生

舞台袖、向こう側から当たるライトがまぶしい。
レッスンリハーサル、言われたことやってきたことが頭の中を覆いつくす。
何度も聴いた曲、と、息を吸う。
高ぶりを笑顔で押さえて明るい世界へ。
この瞬間、私が生きている証。

思春期に肉付きが良くなってきた身体を恨んだ。
運動神経は下の下。
固い体に上がらない足。
何もかもが向いてなかった。
ただ、踊ることが、舞台に上がる袖からの景色、その瞬間が好きだった。

向いてないといわれる前に、自分が一番よくわかっていた。
見せられないと隠す先生の、後ろでこれでもかと笑って踊った。
すらりと伸びた手足の彼女らは、好きなだけ食べて疲れると休んですぐに帰って、いつも、
一番前で踊った。

それでも、ひとりの、その人は、思いっきりやれと、頭を強く撫でてくれた。
大声で泣きながら踊らせてくれと、すがった私をまっすぐ見つめ返して。
周りの誰もが目をそらしても。
辛いなら、辛くなくなるまで頑張ると決めた。

ときどき思い出す、もう10年以上前の言葉を、まなざしを、強く伸びる手を。
私の中に残るあなたは、これからも消えない。
何気ない言葉を交わしたこともないまま、さよなら。

一度でも、大好きですと伝えられれば良かった。
きっと忘れられていただろうこんな、弱い弱い私の中の、強い強い記憶。

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