あなたの隣で息を止めた。 私だけでも時間が止まればいいと思った。 私を助手席から降ろしたあと、彼はまた家族を始めてしまう。 知らない女の人がアイロンをかけたシャツを着て、知らない子供にパパと呼ばれて、 ニコニコと食べ終わった食器を洗って、今度の日曜日の計画を立てる。 いつも穏やかな家族想いの彼を作っているのは私との時間なのに、家族は誰も私を知らない。 お風呂場でカップ麺を食べて、脱いだままの重なった服を器用に着て、 小学生みたいに靴下を投げて、床に寝ころんだままちびちびとコーラを飲む、彼を知らない。 私が大好きな彼は、私しか知らないなら、離れた後のことは知らないふりをしても、 これは間違いじゃない。 間違いじゃない。 私たちは愛し合ってる。 着信画面を見た彼が、知らない顔になる。 いつもより遠いコンビニで降ろされて、いつも通りカフェラテを買ってくれた。 いつも通り再来週の約束をして、いつも通りありがとうとラインが来た。 カフェラテはいつもより苦かった。
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