いつからか、こんなにも、遠くなっていく。 見渡して独りだと気づいたときには声も届かない。 どこにも力が入らないのに動悸だけは激しく、私に、響く。 中学生のころ一緒に夢を追いかけたあの子は、高校生になると大学入学を夢見た。 薬剤師のお母さんと話しながら、栄養士になろうと決めたらしい。 一緒に歩いた渋谷の交差点。 ビルの一室にある事務所を目指した、オーディションという名の東京旅行は、 私には始まりで、あの子の中で思い出になった。 数年前まではガムシャラにもがいていたあの子も、今では立派な母親になった。 一緒に過ごした時間を、昔のことのように、青春だったね、と、語る。 才能がないことなんて、18歳のあの景色を見て知っている。 頼りない貯金を数えて、まだ懲りずに通う東京。 今年建てたらしい夢のマイホーム。 変われない私を、眺めて、笑われて、相変わらずだねと我が子をあやす。 彼女は、幸せそうだった。 育児の大変さと仕事の両立と実家との関係を愚痴りながら、私には出来ない、笑顔を見せた。 東京土産の安いクッキーを選びながら、残念そうに私を見て、羨ましい、と言った。 こんなところで。 足元に視線を落とす。 濁った水溜りが揺れて、大丈夫、の文字が揺らぐ。 何度も言い聞かせた言葉が、今か今かと足元を漂う。 大丈夫、 大丈夫、 大丈夫、。 誰にも気づかれないまま、私はここから動けずにいる。
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