詩 頭皮 もうあとは家のローンを払うために、馬車馬のように働くだけだよ。 二十歳の私をベッドに転がしたまま、ガラスのテーブルから煙草を拾う。 好きでもない小太りのこの男と結婚した奥さんは可哀そうだ。 まだ30そこそこのくせに脂ぎった頭皮に乗っかった、... 2023.07.07 詩
詩 肌色 小さいころ、おばあちゃんちの隣に小さな公園があった。 学校から帰るといつも遊びに行った。 ある日いつものように公園に行くと、少し年上の男の子たちに靴が変だと笑われた。 その時のわたしは一番のお気に入りの靴を履いていて、かっこよくて大好きだっ... 2023.07.07 詩
詩 こども包丁 お母さんの手伝いが好きだった。 家族が着る洗濯物を畳むのが好きだった。 私が切った野菜を美味しいと食べてくれるのが嬉しかった。 私が手伝うとお母さんは、勉強をしなくても怒らなかった。 いつも学年上位の成績のお姉ちゃんは、雨の日に2階の窓から... 2023.07.07 詩
詩 インスタントコーヒー 食パンを2枚トーストする。 一緒に買ったケトルでお湯を沸かす。 マーガリンとジャムを塗って、インスタントコーヒーをお湯で溶かす。 今日が何回目かも分からない、いつも通りの朝だった。 少し早起きだったけど、2人とも寝坊せずに起きられた。 私の... 2023.07.07 詩
詩 栄養士 いつからか、こんなにも、遠くなっていく。 見渡して独りだと気づいたときには声も届かない。 どこにも力が入らないのに動悸だけは激しく、私に、響く。 中学生のころ一緒に夢を追いかけたあの子は、高校生になると大学入学を夢見た。 薬剤師のお母さんと... 2023.07.07 詩
詩 半袖 雨上がり、夏の匂いが無くなった。 じんわりと肌を冷やす湿度が通過する。 まだ半袖で駅まで歩く。 私は少し恥ずかしい。 水溜りに右足を引っかけて、すぐに染み込んだストッキングが気持ち悪い。 傘を持たずに家を出たせいで、帰りが遅くなってしまった... 2023.07.07 詩
詩 匂い キャリーケースを開けた。 あの頃の匂いが、むわっと広がる。 忘れていた、使いかけの衣類洗剤とスーツケースベルト。 あの時その場所見た景色が、頭の中を駆け巡る。 最後の旅行はいつだっけ。 いつも一人だった。 高校三年生で東京に行くことを覚えた... 2023.07.07 詩
詩 右手 毛先だけ、茶色く染まった肩までの髪、後ろ姿、左手にエコバッグ、右手に息子。 左腕をぐんぐん引かれて足が絡まる。 それでも必死に離さない。 振り向いてくれない母親の、右手を絶対に離さない。 誰よりも愛、これが愛だと疑わない。 当たり前に引っ張... 2023.07.07 詩
詩 歪み あなたの隣で息を止めた。 私だけでも時間が止まればいいと思った。 私を助手席から降ろしたあと、彼はまた家族を始めてしまう。 知らない女の人がアイロンをかけたシャツを着て、知らない子供にパパと呼ばれて、 ニコニコと食べ終わった食器を洗って、今... 2023.07.07 詩
詩 猛暑 バチンバチンとアスファルトに体を打ち付けながら、セミが突然飛んでいく。 外に出るのは危険な暑さらしい。 町内放送で流れていたのを聞いていたけれど、おばあちゃんはお墓参りをやめられない。 もう、バケツに水を半分も入れると運べなくなっていた。 ... 2023.07.07 詩