詩 夜 古いアパートに住もう わたしのお給料で足りるぐらい 昭和の香りが残るぐらい 安さが売りのスーパーの近くで わたしが毎日ごはんを作るから 朝が怖くならないように 夜が来たら一緒に眠ろう カーテンを開けて朝日が目覚めても 憂鬱にならない日をおく... 2023.11.26 詩
詩 我儘 あなたが我儘になるほど、わたしは嬉しくなる。 気を許してくれている怒りっぽい姿は、わたししか知らないままであってほしい。 お母さんになっちゃダメだよと友達は教えてくれるけれど、そばにいられるなら嬉しかった。 お金も時間も欲しかった。あなたに... 2023.11.26 詩
詩 おばちゃんち 2軒隣が火事になった。 その日、わたしは小学校を休んでいて、母と2人だった。 細い路地を挟んだ向こう側、大きな炎が2階の窓から見えた。 母は私をギュッと抱きしめて震える声で、大丈夫だからね。と言った。 実家の2階、お姉ちゃんの部屋から2人抱... 2023.08.02 詩
詩 焼き魚 指輪が緩くなった。 2人で買いに行ったときには、これがぴったりだと思った。 まだ半年しか経っていない。 あの日の私は浮腫んでいた。 まだお酒を飲む癖が抜けなくて、先輩に貰った缶ビールを仕事終わりにぐびぐびと飲んだ次の日だった。会社から駅まで... 2023.08.02 詩
詩 頭皮 もうあとは家のローンを払うために、馬車馬のように働くだけだよ。 二十歳の私をベッドに転がしたまま、ガラスのテーブルから煙草を拾う。 好きでもない小太りのこの男と結婚した奥さんは可哀そうだ。 まだ30そこそこのくせに脂ぎった頭皮に乗っかった、... 2023.07.07 詩
詩 肌色 小さいころ、おばあちゃんちの隣に小さな公園があった。 学校から帰るといつも遊びに行った。 ある日いつものように公園に行くと、少し年上の男の子たちに靴が変だと笑われた。 その時のわたしは一番のお気に入りの靴を履いていて、かっこよくて大好きだっ... 2023.07.07 詩
詩 こども包丁 お母さんの手伝いが好きだった。 家族が着る洗濯物を畳むのが好きだった。 私が切った野菜を美味しいと食べてくれるのが嬉しかった。 私が手伝うとお母さんは、勉強をしなくても怒らなかった。 いつも学年上位の成績のお姉ちゃんは、雨の日に2階の窓から... 2023.07.07 詩
詩 インスタントコーヒー 食パンを2枚トーストする。 一緒に買ったケトルでお湯を沸かす。 マーガリンとジャムを塗って、インスタントコーヒーをお湯で溶かす。 今日が何回目かも分からない、いつも通りの朝だった。 少し早起きだったけど、2人とも寝坊せずに起きられた。 私の... 2023.07.07 詩
詩 栄養士 いつからか、こんなにも、遠くなっていく。 見渡して独りだと気づいたときには声も届かない。 どこにも力が入らないのに動悸だけは激しく、私に、響く。 中学生のころ一緒に夢を追いかけたあの子は、高校生になると大学入学を夢見た。 薬剤師のお母さんと... 2023.07.07 詩
詩 半袖 雨上がり、夏の匂いが無くなった。 じんわりと肌を冷やす湿度が通過する。 まだ半袖で駅まで歩く。 私は少し恥ずかしい。 水溜りに右足を引っかけて、すぐに染み込んだストッキングが気持ち悪い。 傘を持たずに家を出たせいで、帰りが遅くなってしまった... 2023.07.07 詩