詩 インスタントコーヒー 食パンを2枚トーストする。一緒に買ったケトルでお湯を沸かす。マーガリンとジャムを塗って、インスタントコーヒーをお湯で溶かす。今日が何回目かも分からない、いつも通りの朝だった。少し早起きだったけど、2人とも寝坊せずに起きられた。私の運転で空港... 2023.07.07 詩
詩 栄養士 いつからか、こんなにも、遠くなっていく。見渡して独りだと気づいたときには声も届かない。どこにも力が入らないのに動悸だけは激しく、私に、響く。中学生のころ一緒に夢を追いかけたあの子は、高校生になると大学入学を夢見た。薬剤師のお母さんと話しなが... 2023.07.07 詩
詩 半袖 雨上がり、夏の匂いが無くなった。じんわりと肌を冷やす湿度が通過する。まだ半袖で駅まで歩く。私は少し恥ずかしい。水溜りに右足を引っかけて、すぐに染み込んだストッキングが気持ち悪い。傘を持たずに家を出たせいで、帰りが遅くなってしまった。髪の内側... 2023.07.07 詩
詩 匂い キャリーケースを開けた。あの頃の匂いが、むわっと広がる。忘れていた、使いかけの衣類洗剤とスーツケースベルト。あの時その場所見た景色が、頭の中を駆け巡る。最後の旅行はいつだっけ。いつも一人だった。高校三年生で東京に行くことを覚えた私は、キャリ... 2023.07.07 詩
詩 右手 毛先だけ、茶色く染まった肩までの髪、後ろ姿、左手にエコバッグ、右手に息子。左腕をぐんぐん引かれて足が絡まる。それでも必死に離さない。振り向いてくれない母親の、右手を絶対に離さない。誰よりも愛、これが愛だと疑わない。当たり前に引っ張る、母親が... 2023.07.07 詩
詩 歪み あなたの隣で息を止めた。私だけでも時間が止まればいいと思った。私を助手席から降ろしたあと、彼はまた家族を始めてしまう。知らない女の人がアイロンをかけたシャツを着て、知らない子供にパパと呼ばれて、ニコニコと食べ終わった食器を洗って、今度の日曜... 2023.07.07 詩
詩 猛暑 バチンバチンとアスファルトに体を打ち付けながら、セミが突然飛んでいく。外に出るのは危険な暑さらしい。町内放送で流れていたのを聞いていたけれど、おばあちゃんはお墓参りをやめられない。もう、バケツに水を半分も入れると運べなくなっていた。私が走っ... 2023.07.07 詩
詩 実家 久しぶりに実家に帰った。周りの緑が少し増えていて、さらさらと吹く風が懐かしくて暖かかった。ぼーっと眺めていると、中から「おかえり」と笑顔で迎え出てきてくれた。知らない女の人だった。入ってみると、ガラリと雰囲気は変わっていた。本棚もテーブルも... 2023.07.07 詩
詩 赤信号 信号が黄色に変わる。アクセルを踏み込んだ。赤に変わるのを確認しながら、踏み込んだままの右足は緩めなかった。真っ昼間だというのに見通しの悪い交差点、粉々になればいいと思った。赤になったから、危ないから、止まれと言われて止まるのはもう嫌だった。... 2023.07.07 詩
詩 ゲロガメとオハナ ゲロガメです。ゲロガメは、亀の甲羅が背中についた蛙みたいな見た目をしています。ゲロガメは、ゲロもガメも気に入ってはいなかったので、いつもウサギの耳を模したカチューシャをつけていました。ゲロガメは、オハナと一緒に住んでいました。ゲロガメはオハ... 2023.07.07 詩